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2020年10月21日 (水)

「生物多様性」の森は一本の植樹からはじまる

 10月の森作業の帰り道。この日は国道122号線の旧道“細尾峠”を超えて帰ることにしました。12㎞のつづら折りの細道です。1978年3月に日足トンネルが開通するまでは足尾と日光を結ぶ主要道路でした。

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 日光「いろは坂」に負けない急カーブが続き、峠の頂上に着くと道の両側に森が広がっていました。通過するだけで降車したことが無かったので、車を止め森内の散策をすると、林床には笹が生い茂り、ミズナラやブナの木が天に伸びていました。

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 足尾銅山周辺の森の木々は坑内の支保抗や燃料として伐採されたと聞いていたのでおどろきました。ひときわ太いブナの木を見つけ、幹の直径を図ると70㎝ほどありました。標高850mほど、1年に2㎜の生長だと樹齢175年、1㎜だと350年です。“森びと”が植樹を始めた「臼沢の森」と標高が同じなので、煙害や山火事が無ければ足尾の山々にはミズナラとブナの巨木の森が広がっていたのだろうなと想像しながらブナを観察しました。

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 ブナの裏に回りビックリしました。この時季にはいるはずがないと思っていたミヤマクワガタがとまっていました。本物を直に見るのは夏休みにクワガタ取りをしていた子供時代、45年以上前になります。成虫が地上に出てくるのは7月~8月、地上にでてからの寿命は1カ月程度と言われるので、夏の長雨で季節を間違ってしまったのか、気候変動は虫の世界にも及んでいるのかと心配になりました。(ミヤマクワガタは写真に収めるだけで採取はしていません)

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 10月15日(木)の毎日新聞で元村有希子論説委員が「生物多様性の保全」について取り上げた記事が載っていました。記事では『個性豊かな生き物が共生する「生物多様性」を保全する取り組みが進まない。各国が合意した20のゴール「愛知目標」は最終年の今年、達成できた項目がゼロという残念な結果となった。』と日本の取り組みの現状を伝えています。『今後のヒントになるのは、里山の再生を目指す日本各地での活動だ。人々が暮らしの中で利用し、手入れしながら守ってきた里山は、私たちが生物多様性を身近に感じられる貴重な環境でもある。』と課題を投げかけています。

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 「生物多様性基本法」(2008年6月6日制定)の第十四条で『国は、地域固有の生物の保全を図るため、我が国の自然環境を代表する自然的特性を有する地域、多様な生物の生息地又は生息地として重要な生物の多様性の保全上重要と認められる地域の保全、過去に損なわれた生態系の再生その他の必要な措置を講ずるものとする。』とあります。

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 かつて養蚕が盛んで農作物を収穫し生活を営む村民が暮らした松木村。煙害や山火事で「生物多様性」を失った足尾の山々、そのふもとにある旧松木村での植林を初めて15年。1年目に植えた苗木はすべてシカとウサギにかじられました。しかし、翌年春には芽を出し、食害を防ぐことの大切さを教わりました。木々が生長するとそこに生息する虫や鳥が増え、風や動物が運ぶ種が活着し森の仲間を増やしていきました。現在、森びとの植栽地では命の営みをする生きものの姿を見ることができます。

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 元村論説委員は記事の最後に『生物多様性が失われると、その悪影響は、生態系の一部である人間に確実に及ぶ。10年を実効性のある行動につなげるための努力が求められる。』と国や私たち市民に投げかけています。国の検証結果は「達成できた項目がゼロという残念な結果」かもしれないが「過去に損なわれた生態系の再生」は木を植え、育てることで「実現が可能だ」ということを15年の森づくりが示しているのではないか。オオムラサキが舞い、ミヤマクワガタが暮らす渡良瀬川源流の森、“未来の宝”へ育てていくのも私たち人間の責務である。

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(筆者・清水 卓)

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