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2013年10月

2013年10月14日 (月)

森のお土産、キノコ

Pa262532  森の主役は、もちろん樹木である。中でも高木となる樹木は、その他の亜高木、低木、草本などの脇役を従えて森を統率する。森に住む動物たちも、脇役にすぎない。しかし、私たちが森の中を歩いて楽しみを見出すのは、むしろこの脇役たちのおかげである。

Pa170539  単に山を登ることのみを目的とする人たちよりも、草木の名前がわかり、鳥の声を聞き分けられ、虫の姿に感心する人たちはもっと森を楽しんでいるはずである。更に、もう一つ付け加えるならば、キノコの知識があるとよい。キノコは姿形が可愛らしいばかりでなく、中には素晴らしく美味しいものがあるからである。スーパーで売っているシイタケ、マツタケ、エノキタケ、シメジ(本物ではない)などだけで満足するなんて、もったいない。味、香り、歯触りでこれらに勝るキノコはいくらでもある。

 私のキノコ狩りのホームグラウンドは奥日光、富士山、志賀高原の3か所である。以前は日光の光徳沼の近くにある山小屋を借り切って、4~5家族で泊り込み、昼間はミズナラ林の奥深く分け入って、ナラタケ、クリタケ、ナメコ、ムキタケ、コガネタケ、ヤマブシタケなどを見つけては欣喜雀躍し、夕方からはみんなでキノコに付着した落ち葉を歯ブラシで落とす作業にかかり、料理に着手。煮つけ、おろし和え、天ぷら、茸入りスパゲッテイーなどが出来上がる。それに加えて上等のステーキ、赤白のワイン、厳選したフランスパンが卓上に並ぶ。山小屋の窓からは満天の星空が見え、だれかがギターを奏でる。一年一度の贅沢茸パーテイーである。

Pa302827  もちろん、キノコに当たって中毒死してしまっては、元も子もない。私がこうして生きているのも、図鑑をたくさん買い込んで猛勉強すると同時に、キノコに詳しい先生や山小屋の主人(たとえば東富士山荘の主人など)に教えてもらったものをしっかりと覚えているからである。「原色日本菌類図鑑」の著者である今関六也先生に、「先生の図鑑に書いてある「食」「毒」というのはどうやってわかったのですか」と質問してみると、「昔から言い伝えられたものが主だが、食毒不明なものは傘の四分の一だけ食べてみるんだよ。もし、有毒なキノコなら30分たつと下痢や腹痛が始まる。でも、少量だから死なないよ」という返事だった。くれぐれも真似しないように。私たちは先生の「実験結果」だけを利用させていただこう。(青木 淳一・横浜国立大学名誉教授)