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2013年5月22日 (水)

ヒトは森の扶養家族

 

 

 

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「生態系」という言葉をよく耳にする。しかし、その意味を正しく把握している人は少ない。ほとんどの場合、「自然」と同じ意味にとらえ、貴重な生態系が....とか、生態系が破壊される....とか言っている。しかし、生態系は都会の中の貧弱な公園にもあるし、ドブ板の下にもある。そこに「生産者」「消費者」「分解者」の三者がそろっていれば、生態系と言えるのである。ただ、自然と言った場合には、この三者は念頭にない。

 

 もっとも立派な陸上生態系は「森林」である。それは聳え立つ高木が率いる亜高木、低木、草本、コケに至るまでの植物からなる「生産者」、植物や動物の遺体を処理し、分解する役目を担うミミズ、ワラジムシ、トビムシ、ササラダニなどの土壌動物やカビやバクテリアなどの土壌微生物からなる「分解者」、それに生産者が作った有機物に依存して生活する鳥獣、虫などの「消費者」から成り立っている。ここで重要なことは、生態系の主役は「生産者」と「分解者」の二者であって、もし生態系を家族にたとえるならば、生産者は世帯主、分解者は配偶者に相当する。この二者が生態系をささえ、扶養家族である「消費者」を養っている。ここで胆に銘じなければならないことは、この地球上で一番威張っている人間も、消費者すなわち森の扶養家族の一員にすぎないと言うことである。残念ながら、ヒトはケムシやナメクジやダニと同格なのである。

 

 したがって、生産者と分解者が豊かで活力に満ちている金持ちの森は、たくさんの扶養家族を養える。人工林や都市の植え込みなどに消費者である動物の種類や生息数が少ないのは、その森が貧乏だからである。消費者である動物は主役ではないが、生態系の経済状態を示す指標となる。生態系の家計が苦しくなると、森は高次消費者から切り捨ててゆく。大型の肉食獣や猛禽類がいなくなる。ついで、小型の鳥獣が姿を消し、さらに虫が減ってくる。本当を言えば、生態系が劣化してきた時、消費者の頂点に位置するヒトが真っ先に消滅するはずなのである。その時はいつかやってくるかもしれない。

 

人類にとって大切なことは、生態系の中で「生産者」の主役を務めている樹木にまず敬意を表し、普段は地面の下にいて目に触れない「分解者」の働きに思いをいたし、自分たちはこの両者に生かされている「消費者」であることを自覚することである。消費者の中では例外的に強い力を持ってしまった人類は、生産者である森を破壊することもできるようになってしまったが、同時にまた森を守り、創造する力をも与えられているのである。そこにこそ、森の民である日本民族の中から立ちあがった「森びと」の存在意義があるのであろう。青木 淳一(横浜国立大学 名誉教授)

 

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