“鉄は伸び縮み、劣化すれば緩む”、ということを学んでいる鹿たち?
2月上旬、足尾・臼沢の森で鹿の追い出しを行った。数匹の鹿が柵内に侵入していたので、昨年秋に植えたばかりの幼木が食べられないように、スタッフ8名は必至なって追い出しを行った。
臼沢の森の入り口付近の標高は約800㍍、ここから傾斜30度もある斜面に木を植えてきた。この入口付近から登ること約100㍍までの木々は大きく育っているが、林床には草が殆ど生えていない。よって鹿たちは草がよく生えている900㍍以上の地に現れるのだ。枯れ草の根元に生えている僅かな草を探しながら、この草地に植えた幼木の冬芽を一緒に食べてしまう。ゆえに、この時季の鹿追い出しは標高約1千㍍付近まで登り、上から下へ追い込むのである。
柵はスチール製で設置してから10年以上も経っている。鹿を追い出していると、驚いたことに20㎝程の四角い柵の目に突撃した若鹿が、2度目の突撃でその柵の目から抜け出してしまったのだ。鹿の胴回りが60㎝以上はあるというのに、目の前で一瞬のうちに柵から逃げ出してしまった。
よく、「鹿は学習している」と言われているが、10年以上経ったスチール製の柵は劣化し、力を加えればスチールが緩むということを学習してきたのだ、と思った。人間は、レールを見ても分かるように、鉄の塊でさえ夏には伸び、冬は縮むということ知っているが、鹿たちは、何度か柵に突撃した経験から抜け出せることを学びつつ、他方では、柵に絡まって命を落とし、キツネやツキノワグマ、トンビの餌となってきた仲間たちを忘れていないのではないだろうか。
臼沢の森に植林して5月で13年を迎えるが、いつになったらこの木々たちを柵から解放してやれるのかと、考えさせられる。木々は、葉や枝が動物たちに食べられても、動物たちに届かないところの枝や葉で生長できる。これでバランスがとれていると何の問題もないのだが、柵外の地は鹿たちにとっては美味しくない木々が多いらしい。柵の危険を知りつつも、鹿にとっては命を維持するために木々の芽と幼木が植えられている柵内の草地に入り込むのだろう。そのたびに、鹿たちは“劣化しつつある鉄は緩み、伸びる”ということを学んでいるのだろう。生きるための本能なのだろうが、人間にも学ぶところがあるように思う。(理事 髙橋佳夫)
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