昨年末からの記録的な暖冬により山や里に雪が降らず、田植え用の水は大丈夫だろうかと心配をしていましたが、山に降った雨を木々が根に溜め、地中を通じて川に湧き出た水が、用水路を通じて“田んぼ”に給水され、田植えが行われていました。兼業農家が多くなっているのでGWが田植えのピークになっていましたが、川の水量が少なく下流域まで届くには時間がかかっているようです。
そして、地下水を井戸(水道)で汲み上げ利用できる“水の循環”によって私たち人間の命はつなげられていることを実感します。
二毛作の農地の麦畑ではツバメやヒバリが虫を捕るために忙しく飛び交い、田植えの終わった水田の中では、カモが水中の草を食んでいました。森の恵みは下流域の生き物たちの命をつないでいます。
「八十八の手間をかけて米は作られる」といわれますが、我が家で消費する米は、栃木県内の小さな河川・姿川の水を引き込んだ“田んぼ”で実家の兄が育てたコシヒカリです。秋の収穫が待ち遠しいですが、昨年の台風19号では増水した水が堤防を越え、川沿いの田畑に土砂が流入してしまいました。実家の田んぼは被害をまぬかれましたが、広いエリアが水につかりました。今年の田植えは大丈夫かと心配しましたが、復旧工事が進み田植えが行われており安心しました。
農家の皆さんが手塩にかけて育てた米や野菜が水につかる映像は、育てた方の悲しみが伝わり、いたたまれない気持ちになりました。
今年は穏やかな気候を望みますが、5月6日沖縄県糸満市では1時間に約110ミリの猛烈な雨が降り「記録的短時間大雨情報」が発表されました。新型コロナウイルス感染の世界的拡大により経済活動が停滞した結果、温室効果ガス排出が一時的に低下したようですが、気候変動・温暖化の速度は上がっているように感じます。
今年1月14日に2019年の世界の海水温度が記録史上最高となったことを科学者らが発表しました(AFPBB NEWS)。人為的な温室効果ガス排出による海洋温度の進行ペースがますます早くなっており、地球の気候に破滅的な影響が及ぶおそれがあるといいます。学術誌「Advances in Atmospheric Sciences」に掲載された研究論文によると2019年の海水温は過去(1981年~2010年)の平均値を0.075℃上回ったといいます。0.075℃上昇するためには、228ゼタジュール(10の21乗ジュール)の熱量が必要で、論文の執筆者のチェン・リジン氏がCNNのインタビューに答えた内容によると、広島に投下された原爆の熱量は63兆ジュール、過去25年間で海に蓄積された熱量は、その36億個分に相当し、毎秒4個の原爆を投下し続けたのと同じ熱量になるそうです。想像もできないほどの熱量です。
そして、オーストラリア南東部で数カ月猛威を振るった森林火災など気候関連の災害と海洋温暖化との間には明確な関連性が存在するといいます。
さらに、世界気象機関(WMO)は4月22日(アースデー・地球の日)、過去50年間で世界の平均気温が0.86℃上昇したと発表しました。今後5年間で平均温度はさらに上昇すると見込まれ、特に高緯度地域で影響が深刻になると予測し、地球温暖化に警鐘を鳴らしました。
2005年9月3日、「このままでは地球がおかしくなってしまうのでは?」という危機感から、地球上のすべての生命にとって欠かすことのできない「いのちの森」をつくろうと、故岸井成格前理事長を先頭に“森びとプロ”を結成し、足尾の地から森づくりをスタートしました。5月15日、岸井前理事長の命日を迎えます。荒廃地での15年の森づくり・育樹活動を通じて成長した現在(春)の足尾の森・杜では、桜が咲き、林床にも可憐な花が咲き、鳥や虫たちが花をついばみ、蜜を吸っています。民集の杜に卒寿記念で植樹した“ホウノキ”も芽吹き、旧松木村の各森も若葉を広げ始めています。
オーストラリアの森林火災は10億匹以上の生き物の命を奪いました。失われた命を戻すことはできませんが、森を再生することで新たな命の営みをつくりだすことができることを15年の森づくりが教えてくれます。
故岸井前理事長は、政治の“劣化”を憂い「自然環境も、市民のパワーも“劣化”させてはならない」と私たちに“檄”を飛ばしました。新型コロナウイルス後の経済復興で地球温暖化の進行では“新たなウイルスの危機”を生みだしかねず、「新しい生活様式」は私たちの生活スタイルの見直しと同時に、石炭火力・原子力依存を脱却し、再生可能エネルギーへの転換を求めていかなければ“生物生存の危機”を招いてしまいます。
「地球温暖化防止は待ったなし!」、“天空の森”の故岸井前理事長の声が足尾、八幡平、南相馬の森に響いているように感じます。森ともの皆さんと手を携え、自然環境と人間の命を大切にする心を育み、“山と心に木を植えて”いきます。
(理事 清水卓)
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