「無言の語り木」(孤高のブナ)と1年ぶりに再会しました。
11月3日(火)、1年ぶりに中倉山に登り、“孤高のブナ”に会ってきました。冬に備え葉を落としていましたが、凛として立つブナを見ることができて、うれしさがこみ上げてきました。
ブナの生きる尾根の北斜面は土砂流出が激しく、ブナの根が露出していました。
木は根、根は土と言われ、根が弱ると徐々に幹も弱ってしまいます。煙害に耐え120年以上生きる「無言の語り木」(孤高のブナ)は今、気候変動・地球温暖化によって巨大化する台風や豪雨に耐え生き抜いていました。
当委員会は、3年前に土砂流出を防止する活動をはじめ、枯木を集めて土留めをつくり、根の周りに黒土を入れました。しかし、その黒土は豪雨によって流されてしまいました。
枯木を積み重ねただけですから隙間があり、よく考えれば流れ出してしまうことは分かることかもしれませんが、山頂に生きる環境の厳しさを知ることができました。
どうすればいいか?足尾の緑化に取り組んだ先達に学び、草の種の入った袋に黒土を入れ根のむき出しとなった斜面に張り付けていきました。ブナを元気にする活動には、森づくりのプロ・林野庁日光森林管理署の指導をいただき、徐々に“森とも”の皆さんが参加してくれるようになりました。
今年の春に計画した「ブナを元気にする恩送り」は、新型コロナウイルス感染が拡大の一途をたどる状況から中止としたので、今回の活動も感染防止に努め、森びと関係者10名での「恩送り」となりました。
植生袋が尾根の環境に耐え、根を生やし、草を伸ばしているかを確認すると、土壌流出の境目となった草地と融合し、草地が広がっていました。感動です。シカのフンが落ちているのでシカのエサにもなっているようですが、負けてない様子です。昨年、植生袋を張り付けた土留めの段の下から根が伸びていました。土の層が出来たことでその先に根を伸ばした結果むき出しとなってしまったのか、今回はその根を守るために植生袋を張り付けました。
ブナが、“生きるんだ”と訴えているようでした。荒廃地の広さからするとほんの少しかもしれません。しかし、やらなければ荒廃地はさらに広がってしまいます。
『植物は〈知性〉を持っている』(NHK出版)という本の中に、根の持つ驚異の能力が紹介されています。根の先端部は「根端」(こんたん)といい、優れた感覚能力を持っているそうです。非常に小さな植物一個体でも、その根系には1500万以上の根端があることもあり、各根端は絶えず、重力、温度、湿度、地場、光、圧力、化学物質、有害物質(重金属など)、音の振動、酸素や二酸化炭素の有無などを計測しています。(これで全部ではない)
これだけでも驚きですが、根端はこうした情報をたえず記録し、植物の各部の要求と個体全体の要求を考慮に入れて計算を行い、その結果に応じて根を伸ばしているといいます。土の下では、ブナの根と草の根が、お互いに情報交換を行い生長しているのでしょうか。
わずかな人間の努力に植物が加勢してくれていることを実感します。
暦の上では「立冬」、これから本格的な冬が到来します。尾根に吹き付ける風雪に耐え抜き、春を迎えた「無言の語り木」(孤高のブナ)に、多くの“森とも”の皆さんと一緒に会いに行きましょう。
(筆者 清水 卓)
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