自然と人の豊かさを象徴する伊勢神宮の森
昨年の話になりますが、伊勢神宮の神宮道場でお話をさせていただく機会があり、久し振りに内宮と外宮に参拝してまいりました。どちらも鬱蒼とした照葉樹の森に覆われていて、神が宿る神聖な場所であることを確信させてくれます。内宮の五十鈴川も祀られていて森と川の一体感は、美しい日本の原風景でもあります。
私は植生学者なので、自ずと森に目がいきますが、森の主役はイチイガシです。日本の照葉樹林は沿海部のシイ・タブ林と内陸のカシ・モミ林に分けられますが、内陸のもっとも肥沃な土地に成立するのがイチイガシ林です。そのような豊穣の土地に伊勢神宮が祀られているのは偶然ではなく、自然と人の豊かさの象徴であるということです。参道から森を覗くとヤブツバキ、サカキ、ヒサカキ、カクレミノ、トキワガキ、バクチノキ、ヤマビワ、コバンモチ、カンザブロウノキ、ミミズバイ、バリバリノキ、イズセンリョウ、ハナミョウガ、ホソバカナワラビなど植物相もなかなか豊かで、長い年月を経た自然林でないとこのような種の多様性は保てないのですね。
私の知る限り、福岡の太宰府天満宮と大分の宇佐神宮にもイチイガシ林があり、豊かさの象徴になっています。伊勢神宮を始め、これらの境内にはクスノキの大径木もあって、ご神木になることも多いのですが、クスノキは中国か台湾から持ち込まれた樹種で、成長が速く立派になるのですね。
(運営委員会代表 中村幸人)
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